黒月つらつら日記
 
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東方SS『記事にならない写真』
~説明~
花の異変のその後、季節は梅雨を経て徐々に夏へと向かっていく。そんな中、射命丸 文はネタ探しに奔走していた。

東方SS記事にならない写真「序章~妖夢の写真」

 晴れ晴れとした日が続いているのに、私の気分は一向に晴れる気がしない。というのも、春の一件以降特ダネが見つからないのが原因。
 逆に言えば見つからないほど幻想郷は平和なのだけど、そんなもの今の私の取り巻く状況からすれば、実はどうでもいい。
 どこかの式神が猫を従えようが、嘘つきウサギの嘘が本当になったとか、そんな些細なことは端に置いといても差し支えないような記事は新聞にしても誰も見ない。それは結果論。
 最近の中では、三途の川の川幅の算出の計算式が出来たとかが一番の記事だろうか。私には、よくわからなかったけど。
そうやって選りすぐった結果、私の新聞「文文。新聞」の発行期間は漫画家が急病を繰り返すかのように開いていき、時間に縛られないリベラルな新聞という題目は言い訳にすらなりそうにない。
 他の天狗は次々にネタを見つけては、一のことから百の答えを導きだす。そして、次々に記事をでっち上げては発行部数を伸ばしているというのに。
 幻想郷はいま徐々に紙が増えている。結果、紙があまるのだが、それがとても恨めしい。私の仕入れた紙は一向に減る余地がない上に、増えていくことに頭を悩ませている。
「なんで、こう幻想郷は平和なのかしら。いや平和なのはいいことだけど。事件らしい事件も起きない。先日の花の異変だって裏が取れないから記事にならないし。こんなんじゃ次の大会も私の負けだわ。うぅ……いい恥ですよ」
 このまま飛んでいても埒が明かない。今は桜が美しく、その花弁の片付けに嘆く紅白がよく目立つ春と、暑い暑いといって、掃除をサボる巫女がよく見受けられる夏の境目、時期的には白黒と人形を遣う魔法使いが、きのこの使用の有無を巡って、あれこれ言い争う梅雨。
 こんな半端な時期に事件なんて起きたら、それはけっこうな記事になりそうだけど、逆で言えばこんな半端に時期に幻想郷で起こるのは、いたずら好きな三匹の妖精が動き出すぐらいの程度で、なんにも起こりそうにない。
 強いて言えば、空気を読めない雲が立ち込めて、今まさに私の真上から雨露を落としていきそうなくらい。私の頭上に雷が落ちれば、我が身をもって記事に出来そうだけど、そんなもの誰も見るわけが無く、私は身を焦がし徒労に終わるだけだろう。そもそも、私にはそんなに献身的な気持ちが強い方ではない。
 そんなことを考えて飛んでいると、本当に頭上から雨が降ってくる。
「困ったわ。とりあえず雲の上まで上がりますか。ちょうどこの上は白玉楼の近くだし、騒々しい三姉妹ぐらいは見受けられるかしら」
 鴉を肩に乗せ、一気に上昇する。ネタになりそうな様々な写真や役に立たない雑記までもが書いてある大切な手帳は懐にしっかりと仕舞いこみ、水に濡れればすぐに使い物にならなくなるアナログで年代物の命の次に大切な相棒はしっかりと抱きかかえた。
 流石、幻想郷最速の私だろうか。雲の上には一瞬で付いた。カメラも手帳にも何も問題はない。
「ふぅ……思ったより濡れちゃったわね。肌に服がべっとりまとわり付いて気持ち悪い。幸いここは晴れているから、服は乾きそうですけど」
 雨が降っているなら仕様がない。この上空にいるのは、騒霊と生真面目な庭師と大食いでよくわからない亡霊のお嬢様がいるだけだ。そういえば、かつての春が来ない事件もこのお嬢様が発端だったような気がする。真実は未だにわからない。この人も考えていることの全容が掴み難いので困る。こう幻想郷で長生きをする人は比例して理解し難いことを言うのだろう。
 生真面目な庭師の方が、何十倍も話しやすい。生真面目な人間ほど事件を隠したがらないし、わかりやすい。それに話が掴み易い。記事を書く者からすれば、理解し易い話ほど、余計な私情を挟まずありのままに事件を書ける。余計な解釈がいらない。それは意外に重要なことだ。とくに真実のみを記事にする私にとっては。
 さて、今日もネタを探そうか。出鼻は雨によって挫かれたが、私の熱意は雨ごときでは挫けないし、冷めることはない。次の大会のトップは射命丸文の「文文。新聞」がいただくのですから。



2月18日(土)02:55 | トラックバック(0) | コメント(1) | 東方SS『記事にならない写真』 | 管理


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